- 杉原 里志
ルール作りは従業員のため。 そして社長の“失業”のため。
会社に「ルール」はありますか?
本コラムは主に経営者さん、
つまり社長に向けて発信していますが、
世間一般の社長のイメージは、
「ワンマン」「横暴」「俺様主義」
そんなものかもしれません。
でも実際は、むしろ逆。
社員に嫌われてはいけないと
(社員さん以上に)気を使っている社長も多いものです。
創業社長から事業を引き継いだ二代目社長なら、
なおさらそうかもしれません。
「社員には伸び伸び働いてもらいたい!」
(厳しくして辞められたらどうしよう…)
「自由度が高く裁量の多い職場にします!」
(ブラック企業なんて言われたら困るし…)
……かくして会社のルールは
どうしても緩くなっていくわけです。
しかし、ハッキリ言います。
組織づくりのプロである私の結論は、
「ルールはきっちり作り込むべし」です。
その理由を説明していきます。
性善説と性悪説、という話があります。
人間の本質は善なのか悪なのか、ということです。
このどちらに比重を置くかで、
組織づくりも変わってくるように思います。
性善説を取る社長はルールを緩くし、
性悪説を取る社長はルールを厳しくする。
シンプルに考えれば、
そのようになるのかもしれません。
しかし私は敢えて、
「もう一つのスタンス」をおすすめします。
それは、「性弱説」。
つまり人間(従業員)は、善や悪である以前に
「弱い」存在だとする考え方です。
過去、私はこんなケースを見てきました。
□社員さんが申請なしに出張に出てしまう
□納期遅れの報告が経営陣にあがってこない
□予算オーバーの案件が通ってしまっていた
□講師が参考書にない独自の教え方をしていた
これらを「性弱説」で考えると、
□申請なしの出張 → 申請が面倒くさかった
□納期遅れ、予算オーバー → 怒られたくなかった
□独自の教え方 → 好きな授業をしたかった
というようなことかもしれません。
「子どもみたいな言い訳をするな!」
と感じられたかもしれませんが、
人間はもとより弱く、ラクな方に流れるもの。
ルールが存在しなければ、なおさらです。
そしてそれらの結果、
会社が被害を被ることになり、結局のところ、
従業員自身にしわ寄せがくるのです。
では、上記のケースで
明確なルールがあったならどうでしょう。
□申請なしの出張をしたらいけません
□納期や予算は絶対に報告すること
□独自の教え方は禁止です
こういうルールがきちんと周知されており、
かつ、違反の罰などが設定されていれば、
彼らは同じ行動をしたでしょうか。
絶対とは言えないまでも、
大きな抑止力が働いたことでしょう。
結果、会社が被害を被ることもなく、
従業員自身にしわ寄せが来ることもないのです。
私が「ルールは作り込め」と言う理由が
少し分かってきたでしょうか。
道路交通法がない道路を考えてみて下さい。
誰もが「自分のルール」で運転する世界です。
いかがでしょう。
恐ろしくて出ていけませんよね。
道路交通法というルールが細かく定められ、
それが周知されているからこそ
皆が安全かつ安心して運転できる。
会社のルールも同じです。
それは従業員を「縛るもの」であると当時に、
彼らを「守るもの」でもあるわけです。
さて、最後に1つ注意点。
ルールの重要性は伝わったかと思いますが、
その上で社長さんにお伝えしたいのは、
「ルールの取り締まりは自分でやるな」
ということです。
ルールは作った。周知もできた。
その後、それが守られているか否かを
自分でチェックしてしまう社長は少なくありません。
気持ちはわかりますが、
それではルールを作る意味が半減します。
なぜならルール作りは、
「従業員に快適で安全な環境を提供する」
ということの他に、
もう1つ重要な意味があるからです。
それはズバリ、
「社長を経営に専念させる」こと。
社長がいつまでも社内の実務をやっていては
会社は大きくなりません。
任せられる仕事はどんどん任せ、
つまり自分自身をどんどん“失業”させていくことで、
社長は初めて「経営に専念」できるのです。
そして「明確なルール」というのは、
社長の“失業”のために不可欠な要素なのです。
さらに言えば、明確なルールがないと、
事業承継の際にトラブルに繋がったり、
M&Aの際に買い手がつかない、
といったことにもなりかねません。
あらゆる点から考えて、
社内のルールはきっちり作り込んでおくべきなのです。